「世の若い恋人達は、身体を繋げて一つになりたいと願いますよね」
「私はそういう風潮には賛成出来ないんです」
「二人で一つの身体を分け合うのもなかなかに大変ですし」
「何より、こんなにも貴方の事を想っているというのに」
「未来永劫、貴方には指一本触れる事すら出来ない」
「私達が赤の他人だったら、そうどれ程恋い焦がれた事か」
「結局、無い物ねだりなんですかねぇ。お互いに」
さもくすぐったげに笑う地木流を、灰人は抱き締めてやる事が出来ない。
近くにいる、傍にいる、そんな次元を超越した自分という存在は、所詮陳腐な妄想の中でしか彼を対象として捕らえられないし、また人並みに愛せないのだ。
考えあぐねても良い言葉は見つからなかった。
なので灰人は単純に会いたい、とだけ呟いた。
えぇ本当に、と独り言の様な返事が返ってくる。
鏡越しに唇を合わせてみたが、つるつるとした表面が息で籠もって唾液でべっとりと濡れるだけであり、灰人はその無機質な苦味に眉を顰めた。
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